約10年ぶりのアメリカ上陸。ニューヨークでの生活、写真。


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プライベートエクイティ・ファンドとヘッジファンドのコンバージェンス

最近、アメリカでは、「プライベートエクイティ・ファンドとヘッジファンドは収束・収斂(Convergence)しつつある」と言われることが多いが、これは一体何を意味しているのだろうか。
まず、Convergenceと言われる現象が始まる前の2つのファンド像を、自分の理解に基づいて明らかにしておく(間違っていたら指摘して下さい)。

ヘッジファンドのビジネスモデル
ヘッジファンドは、ニッチな実態のよく分からない怪しい存在であった。彼らの基本戦略は市場の「非」効率性(market inefficiency)をつくという点にあり、理論値としての株価とマーケットで付けられている株価とのギャップからリターンを得ることで、絶対的リターン(absolute return)を狙うというものである(value finderとしてのヘッジファンド)。ただ、マーケットが動きそのギャップが埋まってしまっては商売にならないので、市場よりも自分たちのほうが早く動くことが求められる。したがって、彼らの株式保有期間は非常に短く、時間単位・分単位の攻防もあるという。必然的に彼らが投資するのは流動性の高い金融商品となる(イングランド中央銀行やロシア政府に喧嘩を売ったジョージ・ソロスは。もっと流動性の高い「通貨」のヘッジをしていた)。また、流動性が失われてしまう数の特定の株式を取得するようなこともまずなかったと言ってよい。これには以下のような事情がある。すなわち、ヘッジファンドとその投資家との間には、ファンドへの投資完了後一定期間経過後に投資家から請求があった場合、ヘッジファンドはその時点までのリターンを計算・確定し当該投資家に資金を返還しなければならないという取り決めがなされるのが通常である。それゆえ、流動性・換金性が高い金融商品で資金を運用していなければキャッシュがショートしてしまい、払戻し請求に応えられない。このように、ヘッジファンドの伝統的な投資戦略は、短期的なリターンに重視を置くものであった。

プライベートエクイティ・ファンドのビジネスモデル
他方、プライベートエクイティ・ファンドは、会社の株式の100パーセントあるいはそれに近い数字の株式を握ることによりじっくりと会社の再建・経営改善に取り組み、最終的には再上場や他への売却等で、利益確定を目指すという手法をとる(value creatorとしてのプライベートエクイティ・ファンド)。100パーセント近いコントロールを取るのは、より柔軟で機動的な会社経営が可能となるからである。このように対象会社の再建・経営改善へのコミットメントが前提となるから、プライベートエクイティ・ファンドの投資家は、一定期間、出資の払い戻しを請求することができないという約定がなされることになる(ロックアップ条項)。
プライベートエクイティ・ファンドの投資戦略は、伝統的には、長期的なものであったと言える。

ヘッジファンドのプライベートエクイティ参入:さらなるリターンを求めて
ところが、当初は怪しい存在であったヘッジファンドも新規参入による競争激化によって絶対的リターンの追及が困難となる。他方、プライベートエクイティ・ファンドはコンスタントにマーケットをアウトパフォーム(outperform)しており(参照:Reverse LBOs)、プライベートエクイティ・ファンドの得ているリターンはヘッジファンドには魅力的に映る。そこで、ヘッジファンドもプライベートエクイティ業務に参入してきたというわけである。例えば、サーベラスキャピタルなどは、トイザラスなどのバイアウトにも積極的に関与し(これらではビッドに勝てなかったが)、GMの子会社GMAC買収では「ヘッジファンドもついにここまできたか」という感じで報道されていた。

アクティビスト・ファンドの存在/各種ファイナンスのノウハウの蓄積
ヘッジファンドのプライベートエクイティ・参入にはアクティビスト・ファンドの存在というのも影響していると言えるだろう。アクティビスト・ファンドは、M&Aにイベント・ドリブンあるいはロング・ショートのような形で関与するのではなく、一定数の株式(基本的には5~10%)を取得することで能動的にコーポレートガバナンスに関与しようとする。彼らは、内部留保が多い会社に対しては(特別)配当や自社株買いの実施を要求し、遊休資産があればその売却を要求し、あるいは自派取締役を送り込む(Board Representation)ことで経営に関与しようとする。究極的にはパートナーと共同で企業を買収して会社の再建・経営改善に取り組み、株主価値の増大を目指す戦略を採るところが出てきたのである。この局面においてもアクティビスト・ファンドは短期の利益追求を目指しているが、上に述べた手法はプライベートエクイティ・ファンドのそれに非常に近い。また、ヘッジファンドはDIPファイナンスやLBOのファイナンスまで手がけている(メザニンや2nd Lienの出し手である)。これをロー・スクールで最初聞いたとき非常にびっくりしたが、この種のM&A関連のノウハウが影響していることは間違いなさそうである。

プライベートエクイティ・ファンドの思惑
プライベートエクイティ・ファンドもヘッジファンド的になりつつある。というのは、プライベートエクイティ・ファンドが会社を買収するだけではなく流動性の高い金融商品を買うようになり(買収対象としての会社の流動性は決して高くない)、また、自らヘッジファンドを買収し自分の支配下に取り込むところも出てきたからである。プライベートエクイティ・ファンドとしては、前述のロックアップ条項により投下資金の流動性を奪われることをよしとしない投資家の意向に応えるためにも、短期運用(=随時払戻し)のファンドを作ることが急務である(そうしなければ投資家が資金を他のファンドに廻してしまう恐れがある。しかし、自分たちでヘッジファンドを運営すれば、ファンド内でプライベートエクイティ投資とヘッジファンド投資にマネーが動くだけでファンドの中ではプラスマイナスゼロであり、ファンドの経営という観点からは好ましい。)。また、投資家としても、新規資金を受け付けてくれないヘッジファンドに代わるものとして、プライベートエクイティ・ファンドにもヘッジファンド的運用を目的とする資金を預けられることができ、好ましい。もっとも、ヘッジファンドもプライベートエクイティ・ファンドもスキルセットは微妙に異なるから、一からスタートアップすることは難しいし時間がかかる。そこで、プライベートエクイティ・ファンドの中にはヘッジファンドを買収し取り込むところも出てきている。最近よく目にするプライベートエクイティ・ファンドによるヘッジファンド買収のニュースは、これにより説明できる。

ところで、Convergenceの要請には、①ヘッジファンドがプライベートエクイティ案件に投資する、あるいは②ヘッジファンドとプライベートエクイティ・ファンドを一つのビークルにぶら下げる形で管理運営するという形で対応するのが一般的なようである。
①のスタイルをとる場合、ヘッジファンドは「サイドポケット」と呼ばれる別のアカウントのようなものを設けて、そこからプライベートエクイティ・ファンドに投資するようである。これには事情がある。ヘッジファンドのフィーは「純資産の何パーセント」という形で決まることが通常であるが、プライベートエクイティ・の投資先は非上場会社でありその価値の評価は非常に難しく、これはフィーの算定にも影響を及ぼす。したがって、プライベートエクイティで運用している資産についてはパフォーマンス・フィーを採らず払戻しもなされない。しかし、プライベートエクイティ運用分が大きくなりすぎると、適時の払戻しができなくなるので、サイドポケットを運用資産全体の30パーセント以下程度に抑えるように仕組まれる。②のメリットは、先に述べたスキルセットの違う人材を効率的な配置と、効率的な資金調達が可能になるという点にある。
こうして見ると両者がそれぞれの思惑を持ってコンバージェンスが進んでいるように見えるが、ヘッジファンドの方がプライベートエクイティ案件に進出していることがこの現象を生んでいると見るのが一般的な理解のようである。また、全てのヘッジファンドがプライベートエクイティ業務への進出に熱心なわけではなく、運用難に陥る可能性のある巨額の資金を抱えるヘッジファンドが熱心であると言われている。

ヘッジファンドの台頭とコーポレートガバナンス
このようにかつては怪しい存在であったヘッジファンドがM&Aの表舞台に出てくると、会社法、特にコーポレートガバナンスとの関係に注目が集まるのもごく自然ではある。実際、実務の世界ではファンド組成に関わるアドバイスだけではなく、M&Aのコンテクストでのヘッジファンドの存在を前提とした議論がなされつつある。しかし、この分野に関しては実務が完全に先行しており、この分野を論じられる学者はアメリカにもまだあまりいないはずだ。

ということで、前置きが非常に長くなったが、次回はこのトレンドを論じる数少ない論文のうち、Kahan, Marcel and Rock, Edward B., "Hedge Funds in Corporate Governance and Corporate Control" (July 2006). U of Penn, Inst for Law & Econ Research Paper No. 06-16をネタに、ヘッジ・ファンドの台頭とコーポレート・ガバナンス論に触れることにする。
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by NYlawyer | 2006-10-31 13:12 | Law and Business